山本正之のズンバラ随筆  第31話 南西微風の希望

 

それは変わらない。フォレバーだ。

 

少し太りぎみのビジネススーツ、アイスを我慢して、ランチのあとの会話、

「やあ、忙しいねえ、クツが踊ってるよ」

ブロンドに真赤な上着、グレーのタイトスカート、サングラス、

「そうなの、だから、ダンスのお誘いは、夜中にしてね」

ストリートの反対側から、メッツのキャップをかぶったじいさん、

「おーい、オレのハニーをくどくなよな、今夜おまえはオレとチェスだぜ」

イエローキャブが通る、バスも通る、騎馬警官も通る、観光馬車も通る。

29丁目の白いコンドミニアムの2階、木造りの台所のテーブルにジュースを

置いて、マムは、リリーを椅子から抱きあげ、クマのパズルを動かす。

ユニオンスクエアーの芝生、緑のままだ。貧乏なオヤジも、ベンチにいる。

あの古本屋、まだ連れてってあげてなかった。アイルランドのゆりかごの造り

方を図解しているB4判、たったの6ドルだ。

「ねえ、なんでそれみてるの?」

いきなり、人形みたいな女のこが腰のあたりから背伸びして話しかけてくる。

となりでダッドが笑う、

「すまんね、うちのスィーティー、ゆりかごマニアなんだ」

ワシントン広場には犬。かしこい犬。まぬけ犬はどこにいるのだろう。

ハウストン、そば屋があるぞ、ハロウィンの景品をレジの脇に忘れて、家に着

いたら、そば屋のマネージャーの声が、ルス電に。

「山本様、タンタンのポシェット、いかがいたしましょう、

 またすぐにお越しくださいませ、私、責任持ってお預かりしております。」

ソーホー、ピアノのある、ビリジャンのベッドのアパート、

ガードマンのおじさん、絵にかいたようなハナちょうちん。パチンッ!

「オー、ハーイ、とおっていいよ、おっと、洗濯室は満員だよ、‥‥グー。」

チャイナタウン、喜万年のヤムチャ、おばちゃん、これ、このツクネみたいな

のはいらないからさ、この、冬瓜みたいなのいっぱい入れてね、うん、そう、

それそれ、あっ、ツクネはいらないって、プーヤオプーヤオ、んもー、じゃあ

食べるよ、ツクネ。それと、チマキ、まだ回ってこないの?、うん、チマキ。

あっ、来た!、あれだ、エイトンツィー、ウォーメンヤオネイガー!」

リトルイタリーのストリートに座る。足、投げ出して、リュック下ろして。

いいお天気だ。

微風が、頭の上を流れる。大通りの喧噪が微風に乗って、路地にも行き渡る。

歩いて行こう、南へ、西へ。

少しづつ、風が潮になる。

トライベッカ。

チェンバースの向こう、ウエストブロードウェイの先、

 

なんという名前なのか、ボクはまだ知らない。

地上50階、同じ高さで、よっつの棟、クローバーみたいに、

空から見れば、クルスのように。

光る ビル

生きる  ビル

 

ハドソンなる川風、ここち よし、

天の色、さらに  青し、

行き交う人、さち うれし、

 

きょうの この日を

かみしめる

 

きょうの この日を

かみしめる