山本正之のズンバラ随筆  第25話 NY盛夏の空遊

 

2001年7月11日午前11時、ボクはNRT発NH10便の機上にいた。

1951年7月11日から数えてぴったり50年、ボクは、50歳の誕生日を

空の中で迎え、空にいる、父に、最初の「おめでとう」をいってもらおうとい

う計画に、燃えにぞ燃えていたのです。

 

しかし、その計画はアッというまに変更されたのであった。

飛び立って数時間後、ボクはCLUBANAのラウンジに行き、キリンラガー

をいただいていた。すると、ひとりの客室乗務員(旧スチュワーデス)がテー

ブルの傍らで声をかけた。「お客様、ビール、おかわりいいかがでしょうか」

彼女の笑顔があまりにも人なつっこくて、ボクはつい、「あ、ください」と答

えた。そして、ボクは、ちょと「酔い」気持ちになった。その、客室乗務員、

「NYでは、お仕事ですか?」なんて、聞いてくれちゃったりする。ボク、 

「いえいえ、まあ、バケーションですね」「あら、いいですねえ、何日ほどの

 ご滞在ですか?」「そう、今回は7日です」「今回、ておっしゃると、何度

 も行かれてらっしゃるんですね?」「いやいや、そんなに、でも、行くと、

 1カ月住むんですけどね」「えええ?!1っカ月のバケーションですか?、

 すっごくうらやましいですうーー」「あ、ごめんなさい、サラリーマンでは

 ないので、それに、少しだけ仕事も兼ねているので」「えっ?!?、どんな

 お仕事でらっしゃいますの?」

ボク、なんだかうれしくて、みずから正体をバラしてしまう。

「作詞作曲家で、歌手です」

 

それから約1時間(念のため、この間ずっと彼女は立っています)、ボクと、

この客室乗務員の、ひなこちゃんとの楽し〜い会話が続く。もちろん、タイム

ボカンのことも、その他のアニメのことも、。そして極めつけはこれだった。

ボク「あなたは、ご出身はどちらですか?」「はい、名古屋なんです」

そりゃあ、話しは燃えドラになるさ!、ねえみなさん。、

言うまでもなく、このひなこちゃん、代々ドラキチ。「燃えドラ」は、家族の

「魂の歌」だそうだ。ボク、めちゃんこうれしくて、「燃えドラ」を創った時

の話しをイッキにしゃべる。そしてついに、誕生日のことも‥‥!。

「まあー!、なんてステキなんでしょう、何かお祝いをさせてください!、」

「いえいえ、そんな、ひっそり一人で過ごそうと思っていましたから。」

「でもー、何かさせていただきたいですわ!」

「いやいや、こうして空の中で楽しいおしゃべりができるだけで充分ですよ」

「とんでもないです(飛んでるけど)、わたくしこそ、お話し聞かせていただ

 いて、たいへん感激しております!」

「そんなそんな、こちらこそ、どうもありがとう」

ひなこちゃんの肩越し、ギャレイでお茶の支度をしていた他の乗務員たちも来

てくれて、みんなで言ってくれた、「山本様、本当に、お誕生日、おめでとう

ございます!」「ど、どーも、ありがとう」

ボクはシートに戻り、ふと腕時計を見た。日本時間で午後5時15分。

ボクが産まれたのは、5時ちょうど。

あんなに気分の良い爽やかな人たちに、最初のお祝辞をいただいて、もう、

空の中で、父と‥、なんていうセンチメンタルな計画はどこかへすっとんでし

まった(すでに飛んでいるのに)。

その後、松本清張の「紅い白描」を読みながら、ウトウト、ぐーぐー、

なんか妖怪みたいな無気味なものがあらわれて耳もとで[お〜た〜ん〜じょ〜

び〜#$%&±*〜]って囁かれる悪夢を見てびっくりして目が覚める。

もう、朝ごはんの時間だった。CLUBANAはよく眠れる。なまじっかフル

フラットにならないぶん、「座席で眠るんだ」という覚悟ができるのだな。

ファーストのフルフラットはスペースを考えると凄いことだけど、ベッドとし

てはやはり不完全ではある。ベッドである以上はどうしても、我が家の寝床を

追求してしまう。「あぁん、この腰んところのでこぼこがぁぁ、」とか、「な

んか足、大の字にひろげたくなっちゃたなぁぁ、」とか、ついには「頭と足、

逆向きに寝返りうちたいなぁぁ、」とかとか。そういえば、エコノミーでは、

よく眠れたなあ。

今回のテーマのひとつ「機内食はすべて和食」を適用し、塩鮭と山菜煮の炊き

込みご飯添えをいただく。おいしい。ANAはほんとにいいなあ。

やがてNY時間の午前10時、そろそろ着陸体制にハイローズって頃、先程の

客室アテンダント、ひなこちゃんがニコニコとボクの席にきた。手に、あーっ

もーっ、すっげぇーーかーわいいー、ANAの飛行機型の風船を持ってるよ!

しかも、その風船の翼が、カードの入った封筒を抱えてる。かわいいいいい!

ひなこちゃんの声、

「たいしたこと思いつけなかったんですが、スタッフ全員からのほんの気持ち

 でございます。楽しいひととき、ほんとうにありがとうございました」

ボク、ちょっとウルルン。

そして、ベルト着用のサインが点き、飛行機が斜めになりはじめる。ボク、

封筒をあける。ブルーの縁取りに、笑顔のスチュアーデスのイラスト。そこに

こう、メッセージが書かれていた。

 

 山本正之様、50歳のお誕生日  おめでとうございます。

 空の上でのバースデーはいかがでしたか?

 NYでも 素敵な時をお過ごし下さい。

 これからも楽しい歌を作り続けて下さい。

 

そしてその下には、なんということでしょうか、この飛行機の機長、副機長、

操縦士から始まり、アテンダントL1から、2、3、4、5、同じくR1から

2、3、4、5、そしてUR(2階席)と、合わせて18人、

まさに搭乗クルー全員の署名が印されていたのです。

 

機窓から見える翼の彼方、青く光る空中で、父が、ボクをみつめている。

 

ボクはこのカードを抱きしめて、NY、JFK空港に着陸し、

R3にて乗客を見送るひなこちゃんに小さく敬礼をして、

アメリカの地に降りてゆくのでした。

 

                                                          つづく