山本正之のズンバラ随筆 第16話 花束無常の理由

 

ボクのステージには花束は一切飾らない。もちろんロビーにも。

今回は、そのお話し。

年齢を遡れば遡るほど、何かをいただく事がうれしかったなあ。

お母さんのオッパイから始まって、運動会の一等賞のエンピツや、習字大会の

金紙、お年玉(うちは親戚中貧乏だったので、たいした額はなかったが)、

クリスマスプレゼント(親は「西洋の祭りには関知せず」という姿勢を貫いて

いたので、これには少々コンプレックスがある。)

もらってすごくうれしかったのは、ゆみこちゃんからのラブレター。中三。

誕生日に姉さんからのオカリナ。高一。

ゴローさんが台湾でおぼえてきた「雨夜花」という歌の歌詞。大二。

いったい今まで、いくつの物々をいただいたことか。

さあそこで、ボクがシンガーになってから、全国各地で、ファンの方からいた

だいた、珍品奇品をご紹介しましょう。

まあ、スターなら必ずといっていいアイテム、ぬいぐるみ。クマさんやらネコ

ちゃんやら、ちょっとやだけどカメさんも。シゲちゃんがくれたウサギは今、

ボクの部屋の魔除けになっている。おかしいのは、御自分の人形を作ってくれ

て、胸に「マコちゃんドールって呼んでね」と書いてあった。

なんとなく恐かったのは、自画像。すごく美しい女性の、自画像。全体がブル

ーに統一されてて、うーーん。

超イヤだったのは、ていうか、怒っちゃったのは、大江千里の歌のカセット。

手紙に「山本さんの歌は、私のだあーいスキな大江さんと似ています。私の編

集した千里ベスト、聞いてね。」だって。カナヅチで叩き割りそうになったけ

ど、そこは大人のマサユキ君、そのカセット、全部聞いたよ。すきにはなれな

かったけど、なかなか良い曲だった。でも、大江千里と似ていたのは、ボクが

COLORSのジャケット写真で掛けている眼鏡の形だけだった。

全く頭が下がるいただきものは、ボクの全スケジュールを調べた表。何月何日

何時どこに誰といた、って。おそらく尾行されてたか、マネージャーとの電話を

盗聴されてたんだろうなあ。ストーカーながらも、よくやるよって。

変な物は、町の食堂にあるカレーライスの見本。こんなの貰って、どうすんの

よ、どうなのよ、どうよ?。

食べ物はねえ、これ、内緒で教えちゃうけど、どこのスターもアイドルも、

実は、芸能界の常識なんだけど、絶対、食べないよ。特に、手作りのクッキー

とかはさ、食べない。だってほら、ね、こっそり、チューしてるかもしれない

じゃん、。 ボク、ときどき、食う。うまそうなんだもん。

何年前だったか、アニソンのイベントで岡山へ行った時、あの頃メチャ人気が

あった声優のS君が、ステージでもらったプレゼント、ダンボール五箱に入れ

て、ホテルのフロントから東京の自宅へ宅急便してた。スターは大変だあー。

 

ボクも、昔は、コンサートでも、贈り物、いただいていた。

ある時、半分冗談ほとんど本気(計算があわない)で、「贈り物は、みーんな

プリペイドカードでください。」と、宣言した。すると慈愛の人々がテレフォ

ンカードやらオレンジカードやら、よくわかってない怪獣カードを贈ってくれ

た。「こりゃあ助かるよ」と喜んだものの、それらのカードは、次第に届かな

くなった。そのかわりに、ある日、くやしいカードが来た。

関西近郊の私鉄電車の乗車プリペイドカードだ。20種類くらいあった。わざ

わざブックケースに入ってさ。そんなにさあ、乗れないよ。これ、どうすんの

よ、どうなのよ、どうよ?! ファンクラブの集いのような会場で、その贈り

主に会った。「おもしろいじゃないですか」と言われた。ボクは、実際、もっ

たいない事をするもんだと思った。これ、フルに使える人の手に有る方がどれ

ほどか、人類スケールとして役立つだろうに。「先生は、プリペードカードが

欲しいんでしょ」っていうイヤミか?逆襲か?、とも思った。が、しかし、

すぐに悟った。これを使い果たすほどに「関西に歌いに来て!」という示唆で

あると。うん、愛しい、と、言っておこう。

 

そんな、ありがたい物々を、完全にシャットオフしたのには、

ひとつの、重大な理由があったのです。

 

1992年7月、東邦生命ホールのスタンダードショーだと記憶している。

楽屋で緊張を作っているボクの耳に、プロデューサーの声が届いた。

「山本さん、お花、いつものようにロビーに置いていいですね?」

「あ、はい、どうぞ」

「それから山本さん、旗が来ましたけど」

「え?ハタ?」

「はい、旗です。どうしましょう、これもロビーに置いていいですか?」

「え?どんなハタですか?大きいの?」

「ええ、大きいです。今回、宣伝でお世話になったところから来たんですよ」

この時ボクは、ライブ開始直前の一番ナーバスな時。「ハタ」のことは、もう

二の次だった。

「はい、どうぞ、どこにでも置いてください。」

公演終了後ロビーに降りて、どすげーびっくりこいた。それは、その旗は、

 

大漁旗だった。

 

これはとても大事なことだけど、漁師を特別視してるんじゃない。

ホールに来たお客さまが、CDなどを物販しているその後ろの壁に、バアーン

と貼られた3メートルの大漁旗を見て、きっと、混乱したにちがいない。

「今夜は、こういうイメージのコンサートなのか」って。

 

翌日、ボクとくだんのプロデューサーは討論した。

「だって、山本さん、旗、飾っていいって言ったでしょ」

「いや、まさか、こういうものだったとはさ、」

「コンサート催行するには、いろいろあるんですよ、営業や、企業関係や」

「だから?」

「やはり、お届けいただいたものは、はい、確かに受け取りましたって、証し

 を示さないと」

「そこのところを、あなたが判断して、是非を決めるべきではないのかな?」

「いえ、あそこの花は飾っても、ここの花は飾らない、という訳にはいきませ

 ん。」

「じゃあ、詭弁だけどさ、もし、丑の刻参りの呪いの人形が贈られたら、それ

 もロビーに飾るということですか?」

「確かに詭弁ですが、はい、飾ります。」

少しの沈黙の後、ボク、

「それなら、すべてを飾らないことにしましょう。」

「いえ、いただいた以上は飾らなければ。」

「それなら、すべてをいただかないことにしましょう。」

ここで、会話は終わった。

 

軽く、楽しい話しを書くつもりで、つい、重くなっちゃったかな?、

でもね、いいのよ、お金出して、花とか、買って来てくれなくても、その花、

こころで持って来てちょうだい。それが、開演時刻と同時に、

ステージの上に、

咲いています。

 

追談、

現在のコンサートプロデューサーとくだんのコンサートプロデューサーとは

別人物です。現在のワンオンワン社長・愛称ピロくん・は、「マサユキさんの

思う存分にやってください」と豪語しながら、一生懸命、スタッフのお弁当の

メニューをにらんでます。

追談その2、

昨年7月の「スターのきらめき」での花輪は、スター!ということで、ボクが

わざと、ビクターとベラボーに届けてもらったんだ(もちろん両社とも初めに

贈る意志ありて、です)。

ま、たまにはこういうのも、

有り、ね。