山本正之のズンバラ随筆   第7話  驟雨雷鳴の快感

 

 

もうすぐ夏休みも終わりです。今年こそは宿題をためずに、一日5ページずつやろうと

心に誓っていたのですが、やっぱりだめでした。絵日記の天気のところは姉さんのをこ

っそり盗み見ちゃったし、朝顔の記録はカトーモーターのけいこちゃんのを写させても

らったし、工作はゆうくんが半分以上手伝ってくれたし、でもね、自由課題で決めてい

た市役所前と駅前の交通量の調査だけは、ちゃんとできたよ。毎日自転車で調べに行き

ました。のぼくんはトランペットが上手に吹けて、ひさちゃんはコントラバスで、ボク

はクラリネットです。合宿はないけど、毎朝6時に音楽室へ行って、オーバーザレイン

ボーを練習しました。リードで唇が切れてお味噌汁を飲む時滲みて痛いです。ギターを

買ってもいいですか?今度は割らないでね。ヤクザの唄じゃないよ。ビートルズだよ。

和泉町のけんちゃんの家へ泊まりに行きました。おじさんが庭に水を撒いていて、長靴

を脱いで、抹茶を入れてくれました。カレーライスを食べてから、応接間のステレオを

かけて、英語の歌をうたって、蒲団の中で、好きな子を打ち明けた。けんちゃんはゆみ

ちゃんじゃなかったのでよかった。夏期講習の午後、杉山先生が受験の内申書におまえ

の悪口を書いてやるといって威張っていた。強い光が校舎の外に反射して、白いハンカ

チで首筋の汗を拭いた。名古屋駅前豊田ビルの下から守山行きのバスに乗って、関西電

力東海支社へアルバイトに行きました。はじめて、一緒に飲んだビール、冷たくて、お

いしかったです。お母さんのこといっぱい話したね。あのヤキトリ、食べなくてごめん

なさい。でも、中津川の御幣餅は全部食べたよ。今、ビリーホリデー繰り返し聞いてま

す。もうすぐ夏休みも終わりです。そう、八月の三十一日は、あの船を作る日だよね。

安城の家の前のガソリンスタンドは、そんなにうるさくなくなりました。店員が女性に

なったから、かけ声も細くて、有線も止めてくれました。アパートも取り壊されて駐車

場になり、二階の部屋から岡崎の花火が見えるよ。七夕祭りでミホが吹奏楽団の司会を

するので、友達もつれて見に行きました。短冊の飾りは、プラスチックだよ。市長賞は

高木屋さんじゃなかった。病院の下も通りました。苦しかったね。もう十年経つよね。

大阪も京都も暑い日でした。ファンの人がたくさん来てくれて、たくさん握手したよ。

生きている人の、生きている手のひらです。もうすぐ夏休みも終わりです。さあ、船を

作りましょう。ボクが産まれた時、夕立が来て、雷が鳴って、稲妻が光って、ボクの産

声がはじけた。驟雨が来る度に、雷鳴が轟く度に、ボクには、生きている快感が走りま

す。お父さん、さあ、船を作りましょう。