第6話  ポイントの恐怖

 

 

数年前、ボクはヨドバシカメラのポイントゲットに狂っていた。カセットテープ、ビデオ

テープ、細かい物から、高価な物まで、なーんでもヨドバシ。かといって、ヨドバシの

店員の態度が良いかというと、そんなこともない。よくあるおざなりな接客。しかも

総合館の5階のオーディオ売り場の・○○・というやつは、お客にデタラメを云ってた。

「DATとMDはつなげませんよ」だって。ボクも「このマランツのアンプ、横板の分が

ラックに入らないので、取りたいんだけど」・「だーいじょうぶ、小さなビス4本はずせ

ば簡単にとれますよー」といわれて、危うく買うところ、「ん、待てよ、よその店にも

行ってみよう」・で、さくらやで前にずらしてよく見てみたら、横板にビスは無く、完璧

に固定されていた。それでも、ポイント欲しさにヨドバシに通う。かといって、どれ程

お徳なのか? 1万円買って、やっと七百円、か。しかも、その場で引くのではなく、

次の買物から引く。つまり、「また来なきゃだめお〜〜ん」と、鎖で繋がれるのだな。

とうとうある日、必死で貯めたポイントで、1万五千円分のDATテープをもらい、

ボクは、そのカードを、ヨドバシの路地のゴミバコに捨てた。 その瞬間、

すんげーーー気持ち良くなった。呪縛から解かれた。

 

時は移り数日前、ボクはANAのマイレージカードに狂っていた。あと500マイルで

40000だ、電話・「あー川瀬くん、わしじゃが、博多のサイン会、ANAで飛ぼ!」

 福岡空港片道566マイル。ばっちりじゃん。

これでNYまでアップグレードだぜ!(アップグレード=エコノミークラスからビジネス

クラスへ、ビジネスクラスからファーストクラスへの、無料変更券)            

その夜、風呂上がりにサッポロラガーを飲みながらANAのマイレージチャートを

ニコニコながめていると、「んんんんん!?!45000だって?!」まだ5000も

足りないぞ、しまったーっ。あんなに確認したのに、勘違いしてた。ぐやじいーー。

なになに、あと5000マイル乗るには、ええーーっと、ぎょえー! バンコックまで

行かなきゃだめなのおーー?  てなわけで、アップグレードあきらめ。その旨、COM

に伝えると、COMの阿倍さん「いーえー、NYは40000マイルでUPですよ」・そ

んなはずはないでしょ! すると翌日ANAから新しいマイレージチャートが配達されて、

「このたび、チャートを変更いたしました。NYは40000マイルでアップOKです」

だって。ああーーあ、もうめんどくさい!

でも待てよ、こないだ入会した・ANAマイレージワイドカードVISA・を持って、

新宿エルタワー2階のANAカウンターへ行き、直接チケットを買えば、飛んだマイル

とは別に、100円につき1マイルカウントされるから、、、ええとええと、おおお!

ちょうどいいぞおお! うっ、だけど、そうするには、COMに頼んだのを、キャンセル

しなきゃなあーー、それも申し訳ないし、、、そいじゃあ、このカードで何か違うもの

買おうか、ディスクビデオとか、フランスベットとか、プラズマテレビとか、ベンツとか、!

いかん!パシパシッ!(我が頬を打つ音) 

人間はこうして、贅沢の泥沼に落ちてゆくのだ。無意味な消費にはまってゆくのだ。

紫の絵具を作ろうと、幾度も幾度も、赤と青を混ぜ合わせ、やがては黒をこしらえる。

おまけの人形の服を、そのまたおまけで着飾ろうと、おまけを越えた散財をしてしまう。

嗚呼!私は!

      おろかものでしたー!

と、その時、

ヨドバシのポイントカードを思い出した。

あれとおんなじだ。

買えば買うほどマイルは貯まるけど、

裏を返せば、買物はすべてANAカードで買わなけりゃ、てことになる。ホテルも全日空

系列に偏る。年会費も取られる。んんんん、一生、ANAに縛られ続けるのかあーー!?

と、その時、

去年の夏を思い出した。

北海道のライブ。あるお客様は、まず札幌へ飛び、そこから汽車で帯広に入ったそうだ。

なんでか。 帯広空港に、ANAは飛ばない。推測ではあるが、

おそらくマイレージが欲しかったのであろう。ご苦労さん。

もうひとり、こんな人もいる、

ライブの後の飲み会(ボクらの打ち上げとは別)で同席したファン同志のワリカンの飲み

代を、「とりあえず私が払っておくから」とのたまい、一同きょとんとする中、サッサと

カードで支払って、その後、御自分の宿泊先に全員同行させ、キャッシュで返していただ

いたそうだ。その・カード・も、ANAカードでありました。(目撃者有り)

なんでこんな、恥ずかしいことをしたのか、

 

あなかしこ、あなかしこ、世にポイントほど恐ろしきものなし。

あるときは、無責任な店員に欺かれ、あるときは不相応に高価な物を購入し、

あるときは、余計な旅程を画策し、またあるときは、仲間の信頼を崩す、

しかして、その実体は   勧誘と束縛の使徒 「稼亜怒三昧」

            (正義と真実の使徒 「多羅尾伴内」のパロでーす。)

 

そしてボクは、この冥府にパッと気づき、明るく爽やかに、NY便のチケットを買うの

でありました。

 

注・ANAはとても良い安全な航空会社で、パーサーも他社を引き離した良質のサービス

  です。ANAカードに関する文中での解釈は、作者個人の葛藤から描き出された情景

  であることを添付いたします。 あなかしこ、あなかしこ。 あなふしぎ。